作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.151愛し愛されることのよろこび

どれほど大切なテーマであっても、幼児向きの絵本の中で人を愛することのせつなさを描くのは、とても困難です。ともすれば、子どもそっちのけのセンチメンタルな恋のメルヘンになったり、純愛ぶりをあざとく抽象化したお話になりがちです。

至純な愛の心を描いて子どもにも大人にも共感できる『どんなにきみがすきだかあててごらん』(サム・マクブラットニィ・文 アニタ・ジェラーム・絵 小川仁央・訳 評論社)は、ぼくのお気に入り絵本の一冊です。どんなに深く相手を愛しているか、そのはかり知れない思いを確かめあうチビウサギとデカウサギの素朴でユーモラスなやりとりがあたたかく胸にひびくからです。その相手が肉親であれ、他人であれ、自分の最愛の人として想定できるところが、この絵本ならではのすてきなところです。

最近、この絵本の姉妹編として『どんなにきみがすきだかあててごらん』の「あきのおはなし」と「ふゆのおはなし」が出ました。秋風の吹く中で、おばけごっこをしながらわざと逃げたり、つかまったり、冬の野原でクイズ遊びをして相手を思いやったり。
《これは、ほんとうに、むずかしいぞ。
チビウサギは、すこしかんがえてからいいました。「ヒント、ちょうだい」
「ちいさくて・・・・・・ちゃいろで・・・・・・ぼくのいちばんすきなもので・・・・・・はねるもの」
チビウサギはいいました。「それは、ぼく!」》

いずれも最後のイラストはデカウサギに抱かれたチビウサギ。愛し愛されることのよろこびが、しみじみと伝わってきます。他愛のないやりとりであっても、人を愛するとはどういうことかをしっかりと考えさせてくれるのです。

いまから数年前、詩人の川崎洋さんからいただいた『ママに会いたくて生まれてきた』(読売新聞社)という本のタイトルになった三歳の子の詩を思い出しました。
《あのねママ、ボクどうして生まれてきたかしってる? ボクね、ママにあいたくて生まれてきたんだよ》

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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