作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.149ポピュラーでない昔話絵本も

世界各地に伝わる昔話を眺めていて、とても不思議に思うのは、国が遠くはなれていて、まるで行き来がなかった時代に、よく似たお話が数多く生まれていることです。例えばアイスランドの「アザラシの皮」は、日本の「天女の羽衣」と同系列のお話であり、グリム童話の「ブレーメンの音楽隊」と、日本の「さるかに合戦」は同類のもの、イギリスの「ロンドン橋」は、日本の「味噌買い橋」とまったく同じです。学問的な検証はともかく、国や環境は違っても、庶民の願いに変わりがないからでしょう。

先日も、日本の昔話の古い資料を調べていたら、アンデルセン童話の「とうさんのすることにまちがいなし」や、ロシアの昔話の「大きなかぶ」とそっくりなお話が出てきました。とりわけ「大きなかぶ」は、国語の教科書でもおなじみの日本の子どもたちにも広く知られている昔話ですが、群馬県の旧大間々町に伝わる昔話は、原題が「せんたじいさんのだいこんひき」。おじいさんのつくった大根があまりに大きくて抜けず、おばあさん、孫、トラネコ、イヌ、ネズミと、つぎつぎに呼んできて手伝わせ、やっと抜けるというお話です。かぶが大根になっているだけで、あとは「大きなかぶ」と変わりなし、といっても、果たしてもともと日本の昔話であったのかどうか。ロシアの昔話を語り手が日本の昔話にしたのかもしれず、そのあたりはよくわかりません。

いずれにしても、日本の昔話の中には世界の昔話にひけをとらないおもしろいものがいくらでもあります。にもかかわらず、昔話の絵本といえばポピュラーなものばかりで、ユニークなお話が少なすぎるように思います。昔話を覚えていた語り部もつぎつぎとお亡くなりになり、直接の語りを聞く機会も少なくなりました。いまや昔話も読み聞かせる時代に変わりつつあります。今年の六月一日から一カ月、毎日新聞の大阪版に日本のポピュラーでない昔話を毎日一話ずつ紹介したら、子どもや孫にも読み聞かせたいというFAXをたくさんいただきました。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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