作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.146なぜファンタジーばかり

青春小説の醍醐味は、未熟な生き方であっても目的に向かってひたすら挑戦し続けるところにあります。その愚直で、せつないまでのがんばりが、さわやかな感動を呼ぶのです。  

今年度の坪田譲治文学賞を受賞した関口尚さんの『空をつかむまで』(集英社)もそんな一冊でした。  

 田舎町に住む三人の中学三年生の少年たちが、にわかチームを組んでトライアスロン大会に挑み、さまざまの不利な条件をのりこえて見事に優勝するという友情物語です。部活のスポーツという近ごろ顕著な素材にもかかわらず、いつの時代にも変わらない青春の哀歌がいきいきとせまってきます。登場人物の個性的な描き方も鮮やかで、幼なじみの少女をめぐる三人の友情が手にとるように伝わってきて、読んでいるうちに胸が熱くなりました。泣かせどころや笑わせどころも心得た、それでいて、あざとさを感じさせない清新な小説です。児童文学として書かれたものではないけれど、子どもたちにも共感を呼ぶでしょう。

そういえば、佐藤多佳子さんの、高校の陸上部を舞台にした青春小説『一瞬の風になれ』(講談社)も部活のスポーツに賭ける少年の物語ですが、いまや大変な人気で吉川英治文学新人賞に続いて「二〇〇七年本屋大賞」にも選ばれました。児童文学でなくても、中学生や小学生にもひろく読まれています。大人に反抗し、世間にうそぶく若者もおもしろいけれど、ひたむきにがんばる若者の生き方を描いた小説はやっぱり感動的です。

大人向きの小説では、高校生や中学生を描いた青春小説の佳作が次々と出るのに、近頃の児童文学作家たちは、どうしてファンタジーばかり書きたがるのでしょうか。『勇太と死神』(講談社)、『天山の巫女ソニン』(講談社)、『冬の滝』(福音館書店)、『黒猫が海賊船に乗るまでの話』(理論社)など、昨年度に初めて本を出した新鋭の目ぼしい作品のほとんどはファンタジーでした。子どもの本の作家になるなら、この現実に生きている子どもたちの、けなげでみずみずしい姿も見つめてほしいものです。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

ページトップに戻る