作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.144古典に学ぶものの大きさ

ぼくが監修と解説を引き受けたポプラ社の「日本の物語絵本」シリーズの二十巻が完結しました。『猿神退治』から『青葉の笛』まで、長い間親しまれてきた日本の代表的な説話を絵本にしたもので、作家たちの力のこもった文章と、画家たちのすばらしい絵が見事に融合した現代絵巻といった豪華さです。  

とりわけ、それぞれの物語の名場面として知られる主人公の姿には、大人も子どもも深く心を打たれずにはいられません。日本の文化とは何か、日本の美意識とは何か、これらの絵本を読んでいると改めて古典に学ぶものの大きさまでも教えられます。

例えばこのシリーズの一冊、『俊寛』(松谷みよ子・文/司修・絵)について国文学者の中西進さんは次のようにのべています。
『松谷さんはつねに新鮮な子どもへの話者として、存在しつづけている。鬼界が島に流されて死んでいった俊寛の運命を、簡要にわかりやすく語られている。その上に司さんの絵がまたすばらしい。鳥も通わぬ死の島は、魚さながらに骨だけのネコなど、それこそ生物みな死者たちである。島の山や岩の奇怪な造形。ぶきみな闇や波の様子。地獄さながらの光景の他に、展開するものはない。俊寛の舞台が司さんのみごとな抽象と象徴の中に、描き出された。・・・・・・こうして久しく、日本人に語られたり、演じられたりしてきた悲話が、いま哀切な文と絵によって子供たちに提供されることは、すばらしいではないか』(産経新聞・平成十八年八月二十六日夕刊)

私たちの祖先がつくりあげた悲劇をビジュアルな形で再現した本によって、そこにこめられた思いを知ることの大切さを思わずにはいられません。

そして、こうした物語をなぜ日本人が愛したのか、改めて考えてほしいものです。

さらにいうなら、日本人である限り、このシリーズに収められた物語ぐらいは、だれもが知っておくべき貴重な文化財であることも忘れてはならないと思います。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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