作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.143人生の真実を描くピアスの作品

イギリスの世界的な児童文学作家として知られるフィリッパ・ピアスが昨年の十二月二十一日に八十六歳で亡くなったという記事が新聞に小さくでていました。
ピアスといえば、まっ先に思い出すのがタイム・ファンタジーの名作『トムは真夜中の庭で』との出会いです。
この作品が発表されたのは一九五八年、その訳書が岩波書店から出版されたのが一九六七年ですから、いまから四十年前になります。
日本では、「ファンタジー」という言葉さえ使われていなかった頃で、その空想世界での、トムとかつて少女だったバーソロミューとの濃密な描写に圧倒され、日本の児童文学との差を思い知らされました。
冒険とロマンといったファンタジーではなく、主人公のトムが不思議がなぜ存在するのか、という疑問を追及することで、子どもから大人になることの悲しみを見事に描き出していたからです。あえていうなら「時間が人間にもたらす変化」を通して、人生の本質までもえぐり出していて、戦後を代表する児童文学の傑作といっても過言ではなく、残念ながら日本にはこれと比較できる作品はありません。
短篇集にもすぐれたものがあり、平凡な子どもの日常の中の小さなドラマを描いた八篇を収める『まよなかのパーティー』(一九八五年・冨山房)や、十一篇の超自然現象の話を収めた『こわがってるのはだれ?』(一九九二年・岩波書店)も忘れられない本です。
とりわけ『まよなかのパーティー』の最初の作品『よごれディック』は、ブタ小屋のブタみたな暮らしと近所の人からばかにされている男の崇高な人間性を鮮やかに描いていて、深く心に残っています。
ファンタジーであれ、現実の物語であれ、平凡な日常生活の中にこそ人生の真実がかくされていることを教えてくれるピアスの作品は、いま読み返しても色あせていません。子どもにとっても大人にとっても、ピアスの描くドラマはしみじみと胸にしみていきます。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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