作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.142メルヘンに学ぶいじめの克服

いじめによる悲しい事件が毎日のように報じられています。しかし、いじめは今に始まったことではなく、大昔からくり返される人間のおろかな性の一つかもしれません。例えば『源氏物語』の最初の巻からして、桐壺更衣に対する女性たちのすさまじいいじめが描かれています。庶民の文芸である『御伽草子』の代表的な継子譚である「鉢かづき」も、いじめに苦しむ娘の物語です。だれもが知っている昔話の「シンデレラ」でも、執拗なまでのいじめが語られます。そもそも「シンデレラ」とは「灰かぶり」という意味の蔑称で、「鉢かづき」と同じく本当の名前すら与えられていません。にもかかわらず、こうしたシンデレラタイプの昔話が世界の各地で語り伝えられているのはなぜでしょうか。

その理由は、数々の試練に耐えながらついには幸運を得るヒロインの姿に未来への希望が持てるからです。どんなひどい仕打ちを受けても、それによって人間性を失うことなく、がんばり続ければ必ず幸せがやってくる、もしかしたらシンデレラのような幸運をつかめるかもしれない。―――いいかえれば、人生を絶望視するのではなく、すばらしい未来を約束するものとして校庭する物語であるところが、人々の共感を呼んだのです。ヒロインに対する徹底的ないじめは、やがて訪れる幸せのためのきびしい試練であり、その試練がきびしければきびしいほど、幸せを得たときのよろこびが大きくなることを象徴しています。

いじめの原因を追究し、いじめる側の非人間性を批判する前に、いじめにあってもそれを克服できる勇気と知恵の大切さも、子どもたちにわからせてあげたいものです。「シンデレラ」は、ロマンチックで楽しいだけのメルヘンではありません。どんなことがあってもいじめには負けるなという素朴な哲学がこめられています。いじめの場面はよくないと短絡的に考えるより、この哲学をきちんと子どもたちに伝えられる親や教師であってほしいと思います。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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