作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.141ヒロインは魔女ばかり

かつての子どもの物語といえば、アルプスの少女ハイジのような、恵まれない境遇のなかで健気に明るく生きていく人物が人気者でした。しかし、今日のぜいたくな暮らしにならされた日本の子どもたちには、あまり興味を持たれないらしく、たとえ不幸なヒロインが登場する物語であっても、その理由は、病気のせいということになります。

だったら、そんな重いテーマより、お話だけを楽しめる物語のヒロインとして、どんな人物がふさわしいのか、書き手の考えることは同じらしく、いまや魔女がひっぱりだこです。本格的なファンタジーはともかく、少女向きのエンターテインメントの主人公は、ほとんど魔女といっても過言ではありません。魔女について詳しくなくても、人間と同じ姿をしていて、好きな魔法を使えるということにすれば、どこを舞台にしようと、それなりのお話が書け、気ままにデフォルメできるからです。
 
メルヘンの世界では恐ろしさの象徴であった魔女も、いまやすっかり好人物になり、子どもの憧れる現代の魔法使いに変身してしまったのです。

とはいえ、『ヘンゼルとグレーテル』に出てくる、大きなかぎ鼻に小さくて赤い目、意地悪そうな口に、ごつごつしたあご、まがった背中で杖をつき、黒い頭巾や服を着ているおばあさんや、『ラプンツェル』で描かれる、町に住んでいても油断のできない人物などが、魔女の本当の姿であることまで忘れてほしくありません。

また。その魔法にしても、人間の夫婦を別れさせたり、赤ん坊を窒息させたり、家畜を病気にさせたり、嵐をおこしたり、畑に雷を降らせたりといった、悪いことの方がはるかに多く描かれてきたのです。

いずれにしても、同工異曲の安直な魔女の物語が多すぎるように思います。子どものよろこぶヒロインは、魔女ばかりでないはず。単なる憧れの存在であるより、人生の泣き笑いをいきいきと実感でき、だれもが共感できる、ユニークで個性的なヒロインを生みだす努力もしてほしいものです。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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