作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.139児童文学作家の文壇デビュー
昨年『ぎぶそん』(ポプラ社)という児童文学作品で坪田譲治文学賞を受賞した伊藤たかみさんが「八月の路上に捨てる」(文學界六月号)で第百三十五回芥川賞に選ばれ、これまで数多くの児童文学作品を書いてきた森絵都さんが『風に舞いあがるビニールシート』(文藝春秋)で直木賞に選ばれました。そのほか『バッテリー』のあさのあつこさん、『西の魔女が死んだ』の梨木香歩さんなど、児童文学のすぐれた書き手たちがつぎつぎと大人の文壇で活躍しています。元ジュニア小説、少女小説の書き手だった女流小説家も少なくありません。
成人文学と児童文学の領域がせばめられたというべきか、それともプロ野球選手のように児童文学の書き手は成人文学新人作家の草刈場になったというべきか、児童文学作家にとっては複雑な心境です。しかし、もっと正確にいうなら童話はともかく、小説には大人とか子どもとかの意識はなく、主人公がたまたま少年少女であて、作者は書きたいものを思い通りに書いてきただけかもしれません。ちなみに坪田賞の対象作品は児童文学として出版されたものだけでなく、成人文学も含めて少年少女を描いたすぐれた小説というのが不文律で、これまでも角田光代、重松清など坪田賞受賞後に直木賞の受賞者となっています。ぼくもその選者の一人ですが、いわゆる児童文学として書かれた作品と成人文学として書かれた作品の質は近年、後者の方がはるかにすぐれているような気がします。伊藤たかみさんだって、もともとは成人文学で活躍している作家です。
子どもたちに人気のあった作家も、彼等が成長すると読まれなくなります。しかし、その読者が成長しても同じ作家が今度は大人の小説を書いていれば忘れ去られることもなく、いつまでも愛読者としてついてきてくれます。これは職業作家にとって大変な強みです。だからといって児童文学作家が大人の小説ばかりに顔を向けるのも考えものだと思います。
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















