作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.134中学生が登場する小説

中学生のことを書いてあるからといって若者向きの小説と思いこむのは考えものです。近頃の小説はなぜか中学生を主人公にしたものが多く、その内容のすさまじさに仰天させられます。人間の女とセックスしようとするナマズの話が出てきたり、ひどいいじめを受けながら、加害者でなく、教師に知らせてくれた生徒を刺殺しようとしたり、こうした小説が新人賞受賞作といわれても、まともに読むのがしんどくなります。

中学生の登場する作品はなんといってもさわやかな青春小説がいちばん。たとえ素朴であってもひたむきで至純な恋はいつの時代も人の心を打たずにおきません。たとえば今年の坪田譲治文学賞作品に選ばれた伊藤たかみの『ぎぶそん』。女性一人を含む四人の中学生がバンドを作り、文化祭での演奏をめざしてがんばる姿を描いたものですが、その交流はセンチメンタルでもドライでもなく、どこまでも誠実で、あたたかな友情を感じさせてくれます。とりわけギターを弾くリーダー格の少年とドラムを打つ少女との恋の芽ばえは、人を好きになる切なさを鮮やかに描いていて、だれもが共感できる青春小説になっています。

心に残る青春小説といえば、山本幸久の『幸福ロケット』も中学生が主人公ならではのすぐれた初恋物語でした。
《香な子はなにをいっていいのか、わからなかった。別れのあいさつ。さようなら。また会う日まで。そんなのをいいにここまできたのだろうか。いやちがう。あたしのいいたいことはただひとつ。―中略―「いっちゃやだよ、ねえ、コーモリ、ずっといっしょにいようよ。ずっとずっといっしょにいよう。ね。お願い」》

転校していく少年を見送る発車まぎわのラスト場面ですが、いささかクラシックであっても、人を好きになるとはどういうことかをしみじみと教えてくれます。これらの小説には、いまはやりのセックスの場面も、異常な人間も登場しないけれど、未来へ向かって生きるための勇気がわいてきます。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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