作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.132ロアルド・ダールのファンタジー

いかにファンタジーばやりといっても、同工異曲の魔法がくりかえされる長編物語を読んでいると頭の芯までふやけてきます。しかもたいていの物語は魔法的パフォーマンスはともかく、結末は予定調和的に終わるのでお話そのものの感動がいまひとつ盛りあがりません。

昨年、映画になったロアルド・ダールの『チャーリーとチョコレート工場』(訳書タイトルは『チョコレート工場の秘密』)も、お菓子工場の映像のすごさにはおどろいたけれど、ダール特有のブラックユーモアは薄まり、結末は原作と異なる家族愛の話になっていました。

ファンタジーは不可能が可能になる夢物語です。しかし、夢がかなっても幸せとは限らないという毒気を含んでいるのがダールのファンタジーで、自由奔放、荒唐無稽の発想でありながら人間の本質をえぐって見せるから子どもばかりか大人の読者も楽しませてくれるのです。新訳の「ロアルド・ダールコレクション」(評論社)の刊行が始まったこともあって、もう一度、彼の作品を読み返してみました。『ガラスの大エレベーター』、『アッホ夫婦』、『マチルダは小さな大天 才』、どれを読んでもやっぱり面白い。例えば最新刊の『魔法のゆび』。腹を立てると自分でも気づかないうちにとんでもない魔法をかけてしまう女の子が、カモ撃ちの好きな一家に腹を立てたから大変。一家の夫婦も二人の子どもも、からだが小さくなって腕がなくなり、つばさが生えてきます。仕方なく木の上に巣をつくったら、人間ほどの大きさになった、つばさのかわりに腕を持つカモに自分たちの猟銃でねらわれるという、怖くて楽しい物語です。お話は短くても、カモと人間の立場を逆転させ、私たちを痛烈に皮肉る見事さは少しも色あせていません。なくなってすでに十六年たっても、ダールを超えるファンタジー作家は見当たらないようです。魔女や魔法使いが出てくるだけの、昔話にもおとるファンタジー物語は卒業したいものです。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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