作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.128悲しみを描いた絵本
新美南吉の幼年童話に「でんでんむしのかなしみ」というのがあります。
自分の背中の殻には悲しみがいっぱい詰まっているのではと不安になったでんでんむしが、どのでんでんむしも同じと知って、それをのりこえていくことを自覚するまでを描いたわずか数枚の作品です。なんの悲しみなのか象徴的であることによって却って人生のきびしさまでも考えさせてくれます。
いかに子どもとて、よろこびの気持ちばかりで生きていくことはできません。
不幸はだれにでも例外なく訪れます。その不幸に耐えるには悲しみの心を知らなくてはなりません。
にもかかわらず、果たしていまの子どもたちはそれをどこまで理解しているのか、悲しみを憎しみや恨みに変え、生と死をゲーム感覚でしか理解できない子どもが増えています。だとするなら戦争や自然破壊といった大きな問題ばかりでなく、もっと身近なところから悲しみの質をとらえた作品も書かれるべきだと思います。どんな悲しみであれ、他人の悲しみを自分のことのように感じられ、いっしょに悲しんであげる感情ぐらいはしっかりと持たせてあげたいものです。
『悲しい本』(マイケル・ローゼン作 クェンティン・ブレイク絵 谷川俊太郎訳 あかね書房)は最愛の息子を亡くし、悲しみのどん底にある男のやりきれない心と姿を描いたタイトル通りの絵本です。作者の体験をもとにしたストレートな表現は、もはや他人ごとでない説得力を持ち、子どもや大人にかかわりなく共感せずにはいられません。
『かあさんのこころ』(内田麟太郎文 味戸ケイコ絵 佼成出版社)は幼い日、継母に苦しめられた体験をもとにして亡き実母への思いをくまに託して描く絵本。自分の悲しみばかりにとらわれていたこぐまは自分が家族を持つようになって死んだ母の悲しみの方が大きかったことを知るという短い文章が読み手の心にしみます。よろこびに比べて悲しみは実にさまざまなものがあります。
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















