作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.127悲しみを描いた絵本

とてもいい作品だと思うのに売行きがかんばしくなくて、いつのまにか消えていく本があります。各社の新年度のカタログを見ても、去年まで紹介されていたのに外されてしまった本が少なくないのです。例外もあるでしょうがすぐれた作品だから、古典的な名作だからいつまでも読まれるという時代でなくなったのかもしれません。

先日も児童文学を受講する大学一年生に『飛ぶ教室』、『風にのってきたメアリー・ポピンズ』、『トムは真夜中の庭で』、『長くつ下のピッピ』、『床下の小人たち』、『ライオンと魔女』などをあげ、読んだことがあるかどうかをたずねてみたら、作者名はもちろん殆どの学生は首を横にふりました。かろうじて読んだことのある作品は『赤毛のアン』、『星の王子さま』、『モモ』ぐらいのものでした。いま各社から競うように出ている宮沢賢治作品だって、百四十編ほどもある童話の中で読んだことがあるのは教科書に載った作品のほかは『銀河鉄道の夜』ぐらいのものでした。

こういう人たちが母親になったり、中には子どもの本の編集者になったりするのですからすぐれた児童文学がどんどん忘れ去られていくのは当然です。学校の先生とて例外ではありません。先生たちの集まりでお話をした時、数年前に出て評判となった作品なのに「はずかしいのですが取りあげられた本は殆ど読んでいません」と正直に打ちあけてくれた若い先生が何人もいました。困ったことに国語の教科書は薄くなり、載せられる文学作品もずいぶんとへってしまい、ついには読解力の低下をまねく始末です。

いくらすぐれた作品でも、ほんの一節を声に出しただけではどうにもなりません。読書は脳を活性化させるより心を活性化させることが先決です。落語の「じゅげむ」をくり返したところで、本を読む楽しさは湧いてくるはずもないのです。そのためにもいい本はいつまでもきちんと読まれる工夫を真剣に考えるべき時かもしれません。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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