作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.126アンデルセン賞の文学はすごい

今年はアンデルセンの生誕二〇〇年というので、各社から絵本や童話集が数多く出版されています。本邦初訳の単行本『王様の新衣装』(河野政喜訳)が出版されたのは一八八八年(明治二十一年)ですからそれ以来、どれほどの数になるか。日本人の童話作家は知らなくても、アンデルセンの名を知らない人はいないほどです。しかし、原作を再話した絵本や童話集を読んだ人は多くても、れっきとした大人の文学として原作を忠実に読んだ人は多くありません。だからアンデルセンは現実を逃れて空想の世界に遊ぶロマンチストの童話作家として戦後の進歩的な日本の児童文学者たちからは敬遠されました。子どもに役立たない文学青年好みの古い童話という認識だったのです。
「彼は単なる童話作家にとどまるものではない。童話という形式で人生の真実を描いた詩人だとすべきだ」と憤慨していたアンデルセン研究家の山室静さんの言葉をいまでも思い出します。

アンデルセンにとってお伽(童話)という形式は自分を語るのにもっともふさわしい方法だったのです。あえていうなら子どものための読物であることを意識せず、自分を語る文学そのものとして童話にすべてを打ち込みました。自分の体験した苦しみやよろこびを童話によって表現し、寓話として人生の真実を語ろうとしました。生誕二〇〇年を迎える時改めてアンデルセン文学をじっくりと味わいたいものです。できたら新訳本で読みたいと思っていたら「あなたの知らないアンデルセン」というタイトルで『影』、『雪だるま』、『母親』、『人魚姫』の四冊(長島要一訳・評論社)が送られてきました。中でも『影』はぼくも初めて読んだ作品で、自分の昔の影が人間の姿になって現れるなんとも不思議な恐ろしい作品で、いま読んでも新しさを感じさせてくれました。そればかりかアンデルセンという作家のすごさをしみじみと思い知らされました。決して「マッチ売りの少女」だけの作家ではありません。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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