作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.123今西祐行さんの童話

去年の十二月二十一日に今西祐行さんが八十一歳で亡くなられました。戦後のすぐれた児童文学の書き手がまた一人消えたことになります。すっかり小粒になってしまった今日の児童文学作品と比べると、今西さんの作品はどれも腰がすわっていて、誠実なまでの人間性への問いかけがあります。自分の仕事にいのちをかける者、自分の信念にどこまでも忠実であろうとする者の生きざまがたしかなはげましとなって読者の共感を呼ぶのです。『肥後の石工』(昭和四十年)、『浦上の旅人たち』(昭和四十四年)などの歴史小説は今西さんの代表作であるばかりでなく、日本の戦後児童文学の傑作といってもよいでしょう。

作者の名前は忘れても「一つの花」(昭和三十一年『そらのひつじかい』収録)はだれもが知っているように数十年にわたって小学国語の教科書に載せられています。反戦をいいたてるのではなく、作者の人柄のように静かに、だが深く戦争のかなしさを訴える童話です。

この作品に限らず、今西さんの幼年童話もまた味わい深い作品ばかりでだれにもやさしく、あたたかな心にしてくれます。海の水たまりに運ばれ、息もたえだえになっている魚を助けるために自分を犠牲にしようとするはまひるがおの花と、そのことを知っている小さな海に水を運んであげようとする人間の子どもたちを描いた「はまひるがおの小さな海」などは何度読み返しても心を打たずにはおきません。

やっと花をさかせるようになったのに切り倒され、オルガンとなって幼稚園へ運ばれるサクラの木を描いた「花のオルガン」、学校の床下に忘れられた落としものを知らせるこおろぎを描いた「それはあまりにとおいこと」など今西さんの童話といえば頭に浮かんでくるのは傑作ばかりでまるで古さを感じさせません。これらの作品にはどんな新しい時代になっても忘れてはならない日本の自然とそれを心から愛さずにはいられない思いがいきいきと語られているからです。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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