作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.122なぜ若い作家が育たない

「二十代のすぐれた書き手はいませんか」と児童書の編集者からよく尋ねられます。
だが残念ながらこの人とすいせん出来る作家はめったにいません。二十代どころか気鋭の新人作家を探すのも困難な状況です。なぜ若い作家が育たなくなったのか。
子ども向きの小説はエンターテイメント以外は売れないからという人もいます。
従来の家族や友人関係が解体し、パソコンや携帯電話のような機械文化の中で生きている子どもたちになにをどう語るべきかわからないという人もいます。それも当然、なにが正しくて、なにが悪なのか書き手自身の生きる規範すら不明なのですから。

ならば時代や社会とは無縁の場所で、自分の内面を自由に語る方がはるかに書きやすく、子どもという読者の枠づけがわずらわしくなるのかも知れません。だから児童文学のすぐれた書き手として登場しながらいつのまにか子どもだけを意識しない小説家になっていきます。
もちろん、わたしは最初から読者など想定していない、子どもであろうと大人であろうと、だれが読んでもいい作品を書いているといわれればそれまでです。
少し嫌味ないい方をすると、文壇へデビューするにはまず児童文学の賞をとるほうがてっとり早いというわけで、大人の文芸誌で活躍を始めると、原稿を頼まれても「児童文学はもう書きません」と断る人さえいるのです。

確かに児童文学と成人文学の垣根はますますせばめられつつあります。
先日発表された芥川賞候補作の作者も若く、二十一歳と二十六歳の二十代作家も二人含まれています。彼等の描く作品の主人公も高校生であったり、十九歳の専門学校生であったり、児童文学でおなじみのいじめの問題も描かれています。

だとするなら、こうした〈綿金世代〉といわれる作家たちに改めて子どもの文学を書いてもらう方が面白い作品が生まれるかもしれません。

とはいっても、児童文学の世界にも新鮮な感覚を持つ、二十代作家の登場を願いたいものです。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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