作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.117死の本質を描いた絵本

子どもたちに読み聞かせる絵本といえば当然ながら楽しくて面白いものが選ばれます。暗くてシリアスなテーマの絵本はボランティアの読み聞かせ会でもリストにさえあがってきません。ましてや死を直接扱った絵本は読み聞かされることもなく、したがって数も多くないようです。しかし、子どもとて死からは自由ではありません。
 
生き物である限り、必ずや生の終わりがやってきます。死は生の向こう側にあるのではなく、生の中にこそあることがわかっているのに、それをみずから語れないからこそ人は昔から死後の世界をあれこれと想像してきました。生前の善行が死後の幸せを約束するという宗教的ロマンチシズムまで生まれました。死とははるかに遠い場所で毎日をいきいきと送っている子どもたちに、死を語るのはいささか残酷です。できることならみずみずしい永遠のいのちについて語ってあげたいものです。だからといって死を扱った絵本は子どもにふさわしくないと決めこむのは考えものです。亡き人のやさしさ、病気と必死に闘っている人のけなげさを描いたお話もなるほど感動的です。
でも、そこでも死の本質は伝わってきません。

今年の四月、ビリケン出版から木葉井悦子さん(一九九五年没)の『ぼんさいじいさま』という絵本が出版されました。この絵本は今から二十年前に偕成社から出て、初版のまま絶版になっていたものです。自分の子どものようにかわいがっていた動物や植物に見送られながら、もう一つの国から迎えにきた少年の手に引かれて静かにわが家を去っていくじいさまの話です。「きょうのことは、ずーっと前からきまっていました」という少年の言葉に「おお、そうだったのかい」とすなおにうなずき、花びらの散る風の中に消えていくじいさま。
《生の終わりを、こんなにもあたたかく、やさしく描いた絵本は類がない。
いのちの尊さと美しさが、確かな感動となって迫ってくる》。これはぼくがこの絵本に書いたすいせん文の一節です。その思いはいまも変わりがありません。
こんな絵本も読み聞かせたいものです。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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