作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.116うれしい『安房直子コレクション』
『安房直子コレクション』(全七巻)がセットとして偕成社から出版されました。
短編・中編・長編から七十一点を選び、雑誌などに発表されたエッセイの四十点も含めて(1)「なくしてしまった魔法の時間」、(2)「見知らぬ町ふしぎな村」、(3)「ものいう動物たちのすみか」、(4)「まよいこんだ異界の話」、(5)「恋人たちの冒険」、(6)「世界の果ての国へ」、(7)「めぐる季節の話」の七巻に収められています。 果たしてこの分け方がいいのかどうかはともかく、安房ファンにとってはうれしい出版です。というのも彼女がなくなって今年で十一年目(平成五年二月二十五日没)、その声価が高まりつつあるのに、肝心の作品集の殆どが書店から消えていたからです。「きつねの窓」、「ハンカチの上の花畑」、「すずめのおくりもの」など、よく知られている作品は数多く収められていても、二百七十二点もある作品の中の七十一点ですから約四分の一、いつの日か全作品集の刊行を望みたいものです。
昭和四十六年、『まほうをかけられた舌』(岩崎書店)、『北風のわすれたハンカチ』(旺文社)で登場してきた安房直子の作品はまさに薫風にも似たさわやかさを持つファンタジーでした。現実と空想の境い目を鮮やかに感じとれる感性。しかもメルヘンの魔法を新しく還元して心おどる物語に仕上げるテクニック。ファンタジーの法則を超え、いきなり不自然で美しい世界へ運びこむイメージの喚起力、西欧的メルヘンの雰囲気を持ちながら日本的抒緒のあふれた切ないドラマがいきいきと迫ってきて、日本人ならではのすぐれたファンタジー作家の誕生を心から歓迎したものです。
このコレクションは解説のたぐいが一切つけられていないのも好感が持てます。 上っ面だけの作品分析で彼女の文学の本質に迫るのは困難です。
彼女が美しいファンタジーの中で追求し続けてきた幸福論とはなにか、その捉えがたさが読者を感動させるのです。
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















