作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.115横山光輝のマンガ
『鉄人28号』の作者、横山光輝が亡くなりました。昭和九年生まれの六十九歳。 少年として彼のマンガに熱中する時代はなかったけれど、ぼくと同じ歳のこのマンガ 家の仕事にいつも注目していました。『伊賀の影丸』、『仮面の忍者赤影』、『魔法 使いサリー』、『コメットさん』、そして『三国志』など、戦後のマンガ黄金時代の パイオニアとして活躍してきました。
手塚治虫はいまやマンガ界の神さまのような存在になっていますが、巨大ロボット のルーツとなった『鉄人28号』も『鉄腕アトム』にまさるともおとらない人気者で した。人間味にあふれた『鉄腕アトム』は常に未来を夢みる正義の味方であるのに対 して『鉄人28号』は単なる鋼鉄の塊りです。操縦する人間によって正義のロボット にもなれば悪のロボットにもなります。なぜなら戦時中の日本軍によって開発された 秘密兵器で、それが戦後の平和社会で大あばれするという設定になっているからで す。
これはなにを意味するのでしょうか。人間性をうばわれ、戦う道具として戦場へ送 られる兵士たちを象徴しているように思えてなりません。どんな人間も機械も、それ を動かす者の意志によって悪にも善にもなるという戦争の本質を見事にえぐり出して いるのです。だからこそ『鉄人28号』が登場する舞台はあくまで敗戦後の日本社会 であり、その無表情のヒーローに子どもとしてきびしい戦時下を生きのびてきたこの マンガ家のというよりぼくたちの世代に共通の思いがよみとれます。空想物語であり ながらリアリティのあるクールでアクティブな日常ドラマであるところに、『鉄人2 8号』ならではの魅力があるのです。
余計なメッセージを主張せず、わかりやすいストーリーで、アクションを中心にド ラマチックに展開していく物語は子どもばかりか大人までも夢中にさせてくれまし た。
あくまでマンガの持つ面白さを生かしながら、理屈をいわずだれもが楽しめる物語を 描き続けた横山光輝こそ本当のマンガ家といってよいでしょう。
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















