作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.113子どもの読書能力は健在

年の全国青少年読書感想文コンクールで、ぼくの書いた『徳川家康
(一九九九年一月・ポプラ社刊)についての感想文が、毎日新聞社賞に選ばれたという知らせを受けました。
カゼのため表彰式を欠席してしまい、受賞者の小学六年生山田みちるさんと会うことはできませんでしたが、その感想文(「徳川家康―負け戦と一枚の絵」)を新聞で読ませてもらいました。
課題図書でもない五年も前に出た本を読んで書いてくれたことを、まずはうれしく思いました。更には著名な人物であっても、人間の本質を見抜く目を持っていることに感心しました。
当然のことながら、伝記の魅力はその人物のすぐれた業績と非凡な生き方にあります。しかし、彼女は家康の武将とも思えない弱さに注目したのです。
臆病者といわれたくないばかりに、家来たちの反対を押しきって武田軍と三方ケ原で戦った家康はとんでもない負け戦になり、いのちからがら浜松城へ逃げ帰ります。このあやまちを肝に銘じるため、その時の哀れな自分の姿を絵師に描かせました。「徳川家康三方ケ原戦役画像」として、いまも徳川美術館に残っています。

《世界にはたくさんの武将がいる。わたしも今までに立派な肖像画を何枚か見た。でも負け戦の時の肖像画はそうないと思う。自分が泣いている顔や怖くて逃げごしになっている時の顔は人に見られたくないし、わたしだってかっこ悪い自分の姿はできるだけ早く忘れるようにしている。でも忘れないで心にとめておくということは、とても勇気のいることなんだと気がついた。自分の短所を真正面からじっと見つめることのできる家康はやっぱりすごい人だと思う。家康はずるがしこいとか策略家だとかいわれている面もあるけれど、それは家来の意見に耳を傾け、よく考えた上での判断なのだということもこの本を読んで知ることができた。》

著者の思いを見事に理解した鋭い洞察力があります。こんな読者がいる限り、
子どもの読書能力は健在です。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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