作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.107渡辺三郎さんの新しい絵本

日本の絵本の歴史上、こどもたちのためにもっともすぐれた仕事を残したのは童画家と呼ばれる人たちで、大正十一年に創刊された「コドモノクニ」(全頁色刷りの絵が中心の雑誌)を舞台にして、それまでの江戸時代の赤本風な絵とは異なる、どこかモダンで芸術的な香りにあふれた美しい絵をかきました。彼等によって、日本のこどもたちは初めて本物の絵本に接することができたといってもよいぐらいです。竹久夢二、岡本帰一、武井武雄、初山滋など、それぞれに個性は違っても、その見事なデッサン力と豊かな色彩感覚は、いまなおみずみずしさを失っていません。

戦後から今日までの数多い絵本画家の中で、このすぐれた童画の伝統を引き継いできた画家の一人が渡辺三郎さんだと思います。独特の形と色づかいによるユーモラスな人物像や、シンプルで幻想的な風景は、こどももおとなもやさしく、ほのぼのとした気分にさせてくれます。そんな渡辺さんも一九一三年生まれですから、今年で九十歳。もはや新しい絵は見られないのかと思っていたら『いいゆめを』(山下明生 作/渡辺三郎 絵 ポプラ社刊)という絵本が送られてきて、思わず目を見張りました。

満月と星の下にひっそりと立つ一本の木と積み木のような家を描いた表紙、それはまぎれもなく渡辺さんの絵ならではの情感あふれるロマンチックな風景でした。海に浮かぶ青い船と港に建つ青い家、月と窓明かりの黄色が夜の静かさを鮮やかに演出します。ユーモラスにデフォルメされたマンボウやカモメたちの夢が画面に広がります。つのをのばしたカタツムリのあくびと噴水の上にのるホタル、おりの中で目を光らせるキツネとおしっこをするゾウ、あどけないフクロウたちの表情。うすねずみ色を背景にして青と黄色と緑の色がたくみなアンサンブルをとりながら、だれもがいい夢を見ることを願う月のやさしさが、詩情たっぷりに描かれています。その若々しい感性に改めて感動することができました。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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