作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.106絵本に無関心な保育士

保育士と聞けば、だれだって絵本にくわしい人と思いがちです。毎日、園でこどもたちに絵本を読み聞かせているのですから当然、母親たちよりもくわしいにきまっています。たしかにベテランの保育士ともなれば、どんな絵本のどんなところがこどもたちの心をとらえるのか、なぜ読み聞かせが大切か、きちんとわかっている人が少なくありません。

しかし、それとは逆に絵本に関心がうすく、義務感だけで、ときどき読み聞かせをしている保育士の多いことも事実です。とりわけ新しく保育士になった人たちの不勉強ぶりにはびっくりさせられます。

先日もある地方の保育士研修会の講師を頼まれ、その折、いろいろ質問してみましたが、ほとんどまともな返事は返ってきませんでした。ぼくは絵本のお話をする時は、たいてい今すぐ手に入る新刊本を使ってお話しするのですが、仕方なくこどもの時に読んだであろう、だれでも知っているはずの絵本を例にしても、ほとんどの人が読んだことはないというのです。ちなみにその絵本とは『はらぺこあおむし』、『ねずみくんのチョッキ』、『どろんこハリー』、『はなをくんくん』、『ピーターのいす』、『きかんしゃやえもん』など。「まさか!」とぼくはやりきれない気持ちになりました。

主催者から新人研修だからといわれていても、こんなポピュラーな絵本も知らない保育士にこどもをたくさなければならない親が気の毒になりました。自分が幼児の時にどこかで出会っているはずなのに、すっかり忘れているのです。有名な絵本だから読まなくてはいけないというのではありません。絵本に対する無関心さに腹がたったのです。いま、どんな絵本が出ているのか、どんな絵本を読んであげようかと、つねに触角を働かせ、絵本の魅力をわかっているのが保育士ではないのか。講演はお説教にかわってしまいましたが、今、園にある絵本のすべてに目を通すという約束をしてお別れをしました。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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