作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.103両親のいさかいを描いた絵本
幼児である間ぐらいは、どんな不幸からも自由な夢見る毎日を過ごさせてあげたいと願うのが親心です。しかし、両親の離婚によってパパやママと別れて暮らさなければならないこどもたちが増えつつある今日、幼児とて例外ではありません。だからといってそういう幼児をなぐさめたり、はげましたりするような絵本は正直いって書きたくもありません。未熟な魂には、かえってかなしみを深くさせるだけです。そもそも両親の離婚やいさかいをお話にしたところで、はたして幼児の心をとらえるものになるのかどうか、疑問が残ります。
ところが最近出版された絵本の中に、両親のいさかいにおびえる幼児の姿を描いた作品があって、絵本のお話も時代とともに変わっていくことを痛感させられました。そのタイトルは『おねがいだからなかよくしてね』(キャスリン・ホワイトぶん クリフ・ライトえ 山口文生やく 評論社)というイギリス生まれの絵本。パパとママがけんかをすると世界中が大嵐になり、家までつぶれそうになります。
《さけびごえや どなりごえ、あたりは まっくら、どこへ いったら いいんだろう。くうきは こおり、ぼくは こごえる。ののしりあいや きずつけあい。ぼくは あらしの うみの なんぱせん。いとの きれた たこみたい。おうちは いったい どこだろう? ぼくは かなしい。ぼくは ひとりぽっち。》
主人公はアナグマの子であっても、リアルな絵で一人さまよう「ぼくの」姿が描かれるだけに、その気持ちが痛いほどにわかります。お話は仲なおりしたパパに抱かれてほっとするところで終わりますが、夫婦のいさかいは幼児の心をどれだけ不安にするかという、こどもよりも親の読むべき絵本のような気がしないでもありません。だからこそ作者も幼児の代弁者となって「おねがいだからなかよくしてね」といわせたかったのでしょう。幼児にこんなかなしみを与えない親でありたいものです。
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















