作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.102すぐに消えていく本

食品には賞味期間が必要でも文学作品にはなくてよいはず。それなのに数年もたたずして消えていく本のなんと多いことか。先日も小学校国語教科書の読書案内で読んでおきたい本を選んだところ、数冊が絶版ということで選びなおしをしなくてはなりませんでした。それも大手出版社の二〇〇二年児童書総目録に出ていて評判にもなった作品です。

いかにすぐれた作品でも売れなければ仕方がないといえばそれまでですが、なんだかやりきれない思いがします。こんなくだらない作品を新しく出すより、いい作品はもう少し残しておいた方がいいのにと残念がるのは著者と一部の読者だけで、売れない本は賞味期間がなくても消えていく運命にあります。したがってその種の本は一般書店ではなく新古書店の方で探せなんて皮肉なことになってしまうのです。このままでは文筆業は成り立たず、作家といっても別の職業を持つ日曜作家でないと生きていけないことになります。

そんな折もおり、さねとうあきらさんから自費出版の『赤いシカの伝説』という本が送られてきました。この本は今から二十五年ほども前に出版された本で、当時はエゾとヤマトの戦いを描いた歴史ロマンとして評判になった作品です。さねとうさんは処女作の『地べたっこさま』以来、骨太の作品を書き続けてきた著名な児童文学作家ですが、挨拶状の中でこんな風にのべています。〈このような出版は、当然著名な出版社の手により、多くの方々のご協力をいただいて、作家人生のモニュメントとして刊行されるべきでしょうが、何分にも非力な存在ゆえ、当人自ら老後の資金を削っての、老首かけた一戦になったのも、不徳の至りでありましょう。〉と。そしてこれからも「さねとうあきら・児童文学の仕事」として自選集の出版を続けていくというのです。
 その決意のすばらしさはいうまでもありませんが、今日の出版事情の不幸を思わずにはいられません。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

ページトップに戻る