作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.100面白くておいしい本の登場

学校でのいじめ、病気との闘い、両親との葛藤、近頃の児童文学は相変わらずシリアスなテーマの作品が多く、いかに力作といっても読むのがしんどくなります。だれもが共感できる元気で楽しい物語を読みたいと思っていたら、それにぴったりの作品に出会いました。
タイトルは『寿司屋の小太郎』。主人公の小太郎は小学六年生、商店街にある小さな寿司屋の二代目です。いまどきめずらしいほどの親孝行な少年で、勉強はいまいちだが、だれにも親切で強い正義感の持ち主です。

そんな小太郎が店にやってきたサギ師をつかまえたり、孤独な友だちといっしょに魚の干物をつくったり、市場に船で魚を運ぶ人たちと思わぬできごとからすっかり仲よしになったり、オムニバス形式で描かれる六編はなんとも面白く、久しぶりにさわやかな読後感を持つことができました。

どんなに時代が変わっても人情味のある人たちの暮らす町はなんともあたたかく、そこに生きることのよろこびを素直に共感することができます。こどもが親の仕事を手伝うことの楽しさまで教えてくれるのです。テンポのよい文章で描かれる町のようすや店にくる人たちの姿もいきいきと伝わってきます。お話づくりも達者でたくまざるユーモアにあふれています。

ベテラン作家も顔まけのこの作品を書いたのが現役の寿司屋のおかみさんで、はじめての児童向き作品というから、さらにびっくりです。もっとも『寿司屋のおかみさんのうちあけ話』などのエッセイでその文才は知られていましたが、こんな面白いこどもの本まで書けるとは考えてもいませんでした。寿司屋の物語だけに読んで楽しいだけでなく、おいしい味までしてくるから不思議です。かくれた才能はどこに眠っているかしれないとの感を深くさせられました。新しいエンターテイメントの書ける作家として、これからの作品を注目していきたいと思います。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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