作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.183新しい小人の物語
西欧の小人ではなく、日本の風土から生まれた小人の物語として、ファンタジーのすばらしさを再認識させてくれたのは佐藤さとるの『だれも知らない小さな国』(1969年)でした。この物語と同様の感動を実に40年ぶりに与えてくれたのが朽木祥の『引き出しの中の家』(ポプラ社刊)です。メアリー・ノートンの『床下の小人たち』をヒントにした作品であっても、日本人ならではの美意識から生まれた小人として見事に人間化されていて、その存在をいきいきと実感させてくれます。花明かりと呼ばれる妖精のような小人たちで、幼いうちはうれしいと花の香りを発し、成長すると、自らの内から輝くといいます。物語は七重という少女と花明かりの独楽子との交流を描いた第一部と七重の叔母の孫娘である薫と独楽子の孫である桜子との交流を描く第二部とに分かれていますが時を経ても心をかよわせる小人と人間の美しくも切ない友情物語として胸を打たずにおきません。
どんなに時代が変わっても夢みることのすばらしさ、異郷への憧れがどれほど心を豊にしてくれるか、それを鮮やかなイメージで描き出したファンタジーとして深く心に残ります。どの場面を読んでも細部の描写がしっかりしていて、二人の少女と同様に読者もまた花明かりに出会えそうな気分にしてくれます。とりわけ、見事に紅葉した楓の盆栽、更にはしだれ桜の盆栽の下で花を見上げる花明かりたちの姿が目に浮かぶようです、『床下の小人たち』が人間社会との交流を望もうとしないのに対してどこまでも人間を信じようとする花明かりのやさしさが、この物語を更に身近なものにしてくれます。スタジオジブリの新作として『床下の小人たち』を脚本にした『借りぐらしのアリエッティ』の上映が始まるといいます。このアニメ映画を見る前に『引き出しの中の家』もぜひ読んでほしいものです。いずれにしてもメルヘンの小人のイメージからは早く卒業したいものです。
(2010年9月号)
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。


















