作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.177人生のきびしさを知る

ぼくが少年だった頃、冒険物語や空想物語も好きだったけれど、いちばん深く心に残ったのは悲しい物語でした。とりわけ捨て子や孤児の物語は主人公への同情と、もし自分がそんな環境になったらという不安で、忘れることのできない読み物になりました。大晦日の晩に凍え死んでしまう『マッチ売りの少女』、孤児のネルロが大好きな名画の前で愛犬とともに冷たくなっていく『フランダースの犬』、わずか五歳の少女コゼットが満足に食べ物も与えられず、素足で働かされる『レ・ミゼラブル』など、見事に活写される切なすぎる場面が遠い日の記憶とともにありありと浮かんできます。

しかし、今の日本の子どもたちに果たして、こんな物語が読まれるのかどうか。不況のせいで、住む家も働く場所もない孤児のような大人たちがたくさんいるというのに。不幸の悲しみを理解できなければ、本当の幸せを実感することはできません。たとえ架空の物語であっても、人生のきびしさや生きることのつらさを知ることも大切です。子どもだからといって甘やかさず、人生には不幸が山ほどあり、それをのりこえてこそ幸せの実感できる物語がもっと書かれるべきです。

そのためには子どもをどう描くべきか、書き手みずからが名作の中の子ども像を検証してみることも大切です。『子どもたちは知っている-永遠の少年少女のための文学案内』(野崎歓・春秋社)は子どもの書き手にとっても、ぜひ目を通したい本。≪こどもたちは文学など気にしてはいない。だが逆に文学にとって、こどもはどうやら決定的に重要なのである。あれこれと有名な作品を思い浮かべて、そこからこどもたちがどんな役割を演じているかを振り返ってみればわかる≫とのべるように『オリバー・ツイスト』、『カラマーゾフの兄弟』、『トム・ソーヤの冒険』などに登場する子どもの役目を見事に検証していて、子どもとはなにかを改めて考えさせてくれるからです。
(2010年3月号)

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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