作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.176童画家たちに学びたい

財界有数の読書家として知られる資生堂名誉会長の福原義春さんは『だから人は本を読む』(東洋経済新報社)の中で、母に読んでもらった絵本について次のようにのべています。≪今から考えても『キンダーブック』は内容的にも豪華な絵本だった。(中略)前田青邨、西澤笛畝などの日本画家の作品もあったし、洋画家の作品もあった。イラストレーションにも、初山滋や恩地孝四郎などの個性的画家が活躍していた。私が惹かれたのはラグーザ玉が果物皿を描いた静物画だった。(中略)母に読んでもらった『キンダーブック』のおかげでいくつかの歴史上の一齣、たとえば義経の八艘飛びのエピソードなども、絵と構図とともにイメージとしての記憶になった。ラグーザ玉の静物は青年になってから徐々に目覚めた西洋絵画への興味の基礎となった。≫

おびただしい数の絵本が出版されていても、かつての童画家のように強烈なイメージとして残る絵は殆ど見かけなくなりました。『キンダーブック』のような月刊保育絵本も今日ではマンガ風な絵であったり、メルヘン風の絵であったり、子どもの親しみやすい絵が中心で、いわゆる絵画として描かれたものはありません。歴史物語の挿絵にしても、いわゆる絵巻のような華麗な絵を描く画家は不在で、たいていは劇画タッチのイラストです。

絵も時代とともに変化するのは当然ですが、絵がお粗末すぎて絵本とは思えないものも少なくありません。一度読んだら忘れられない場面の絵があるからこそ、そのお話もしっかりと心に残ります。あえていうならすぐれた絵はお話以上に読み手の心をとらえ、いつまでも色あせることがないのです。川上四郎、武井武雄、黒崎義介、山口将吉郎、伊藤彦造、加藤まさを、高畠華宵、茂田井武など日本を代表する童画家たちの絵は古くなるどころかますます新鮮に見えます。そんな画家たちに学ぶべきところはまだまだあるはずです。新人画家たちの奮起をうながしたいものです。
(2010年2月号)

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

ページトップに戻る