作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.174本格的な児童文学作品を
子どもの世界を描くのが児童文学作家の専門領域と思いこんでいる人がいたとしたら、考えなおす必要があるかもしれません。いまや子どもを主人公にした小説がつぎつぎと出版され、児童文学作品を凌駕するほどです。子どもの読者を意識しなくてもいいのですから思い通りに描くことができ、自分の内なる子どもと深く対話できます。
例えば作者初の長編小説といわれる川上未映子さんの『ヘヴン』(講談社)。十四歳の中学生を主人公にして、いじめをテーマに善と悪の価値観を鋭く問いかけています。また、いま「朝日新聞」に連載中の川上弘美さんの『七夜物語』は小学四年生の女の子が主人公です。
それにしても、近頃の作家たちは、なぜ子どもや子ども時代を描こうとするのでしょうか。予想しがたい未来やとらえどころのない今日の人間を描くより、未熟であっても自分のヘソの緒としっかりつながった子ども時代の方がまだしも説得力のある小説を書けるのかもしれません。そういえば、今年の小学館児童出版文学賞を受賞した『走れUMI』(講談社)の作者篠原勝之さんは児童文学作家です。児童文学を意識して書いたのかどうかはわかりませんが、小学六年生の男の子が夏休みにマウンテンバイクにのって故郷の鯨の街へと走るさわやかな成長物語で、もちろん子どもも楽しく読むことができます。
いま児童文学はYA小説やエンターテイメントの読物が盛んで、本格的な児童文学作品がめっきり少なくなりました。なぜ少なくなったのか。その理由は出版しても売れないからだと聞きますが、だからといってこのままでは児童文学界はますます衰退していくばかりです。売れないから出版されないのではなく、出版できる力作が乏しいというのが実情でしょう。時折出版される新人作家の作品を注目して読んでみるのですが、これぞと思える作品になかなか出会えません。
(2009年12月号)
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















