作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.173絵本『しでむし』を読む

昆虫を主人公にした絵本は数多くあっても、しでむしを主人公にした絵本を見たのは初めてです。しでむしは漢字で死出虫とも埋葬虫とも書くように動物の屍を食べ、幼虫を育てる昆虫です。どう考えても好感の持てる昆虫ではありません。にもかかわらず久しぶりに深く心をとらえたのが新鋭画家の描いた『しでむし』(舘野鴻・偕成社)という絵本です。

秋になって子どもを生んだあかねずみはやがて一人になって死んでいく。そのねずみのところにやってきたしでむしのめすとおす。その死体で肉団子をつくり、交尾して卵を生みつける。幼虫たちは巣立ちしてさなぎになる。おとうさん虫はいつのまにか巣を出て、若いあかねずみに食べられる。それから十五日がすぎた頃、さなぎの皮をぬいだ幼虫は白いはねをつけ、おやむしと同じつやつやとしたからだで地上の林へととんでいく。

事実だけを表現した簡潔な文章と精緻をきわめた絵が、この小さな虫のいきざまを淡々と描き出し、改めていのちの尊さと生きることのきびしさを教えてくれます。先日急逝された熊田千桂慕氏のお弟子さんというだけあって昆虫の生態が克明に表現され、その息づかいまでも聞こえてきそうです。いわゆる科学絵本ではなく、いのちの物語として読み手の共感を呼ばずにおきません。

どんな小さな生き物だって生きる権利があります。必死になって子どもを育てるのは人間もしでむしもかわりがありません。そのことを気づかせてくれるだけでも、この絵本に感謝したくなります。作者も解説の中で次のようにのべています。
≪生きものには、それぞれに生まれてから死んでゆくまでの物語があり、命をつなぐために一瞬を力いっぱい生きています。森の中では、そこかしこに生きものの気配を感じます。そこにいるすべての生きものたちが、みんなどこかでかかわり合いながら命をつないでいるのです。≫
(2009年11月号)

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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