作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.172しっかりと選びたい公募作品

毎年、七月がくると、ぼくの書斎に約二十個ほどの段ボール箱が運びこまれます。今年で四十回目を迎えるJOMO童話賞の応募作品です。一篇五枚の作品が一箱に五〇〇篇ですから全部で一万篇、これをほぼ一か月で読まなくてはなりません。ぼくがこの賞の選考委員を引き受けてから実に二十八年間、年によって増減はあったものの、ほぼ二十八万篇近く(百四十万枚)の生原稿の童話を読んできたことになります。

候補作として五十篇を残すのですが、最初に依頼されたとき、予選は童話の勉強をしている若い人たちのグループに頼んでも結構ですといわれました。ところが真面目すぎたぼくは「素人がいっしょうけんめい書いた作品を作家のタマゴに選ばせるなんて失礼です。ぼくが予選も引き受けます」と、いったのが苦労の始まり、ついに今日にまで続くことになってしまったのです。途中から選考委員になった立原えりかさんにも全作品を読んでもらい、ここ何年間かは二人で候補作を選び、ほかの委員も加わった最終選考会へかけることにしています。従ってJOMO童話賞はすべての応募作品に選考委員が目を通しているユニークな童話賞ということができます。

それにしても公募の童話賞のなんと多いこと。『公募ガイド』誌を見ていると、たちまち十指に余ります。童話作家の登竜門といわれる賞からイベント的な賞まで実にさまざまです。しかし、中には選考委員の名前もなく、だれが、どんなふうにして選ぶのかまったく不明の賞もあって、応募者をためらわせます。どんな童話賞であれ、予選のシステムがしっかりとしていて、受賞作に対するコメントのわかる公募でなくてはなりません。

とはいえ、作品を世に問うチャンスがこれほど多くあるのに瞠目すべき作品が現れないのはどうしてでしょうか。近頃、ぼくも選者の一人として加わった出版を目的とした公募作品を読んでも、新鮮な発想のものは乏しく、若い書き手の少ないのが気になりました。
(2009年10月号)

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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