作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.171戦争を見事に批判した童話

八月がくるたびに、あの終戦の日の出来事を思い出さずにはいられません。日本は降伏したという天皇の言葉を聞いても、小学五年生の神国少年にはどうしても納得できず、意味のわからない挫折感を覚えたものでした。それから六十年以上も過ぎた今日、身にしみて戦争のむなしさやおろかさを知る人たちが、いよいよ少なくなっていきます。ましてや子どもたちにとって、いや大部分の大人たちにとって、どれほど苛酷な体験も、遠い歴史の中の出来事として風化しつつあります。

しかし、いかに時代が変わろうと、戦争はたとえようもない非人間的行為であることを、子どもたちに納得できる童話によって伝えていかなくてはならないと思います。かつては戦争児童文学と呼ばれるほど、数多くの作品が書かれてきましたが、殆ど読まれなくなりました。いかにすぐれた作品であっても素朴体験的な物語では、もはや子どもの心をとらえがたいからです。どう想像力を働かせても、むかしむかしの話になってしまうのです。できることなら、戦争体験とは無縁の子どもたちにも、戦争のおろかさが納得でき、お話として魅力ある作品でなくてはなりません。

例えばモーリス・ドリュオンの『みどりのゆび』(岩波少年文庫)。ファンタジーで描いた戦争童話の傑作だと思います。詩的で、あたたかく、ユーモアにあふれています。それでいて、おろかな戦争を見事に風刺した、いかにもフランス風の味わいを持っています。主人公のチトが指を押しつけたおかげで、戦場に送られた武器は草が茂って花が咲き、大砲を撃ったら弾丸の代わりに花がとび出す。戦争の悲惨さをこれ見よがしに描くより、はるかに説得力があります。戦争をやめさせる勇気とはなにか、戦争を知らない子どもたちにも、しっかりと自覚させることができます。今から五十年ほども前に出た作品なのに、まるで色あせていません。日本にも、こんな童話が生まれてほしいと思わずにはいられません。
(2009年9月号)

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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