作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.170児童文学評論の復活を
いま、日本の児童文学界には瞠目すべき評論もなければ、論争らしい論争もなく、あえていうなら批評無用時代が続いています。三、四十年ほども前、ぼくが若かった頃、政治と文学、リアリズムとファンタジーなど、さまざまな作品をめぐっての論争があり、評論分野もにぎやかでした。非文学的で、不毛な議論も多かったけれど、新しい児童文学を生み出すための熱気があふれていたように思います。そんな風潮をつくり出す先駆けが昭和三十五年四月に中央公論社から出版された『子どもと文学』で、小川未明や浜田広介などの伝統的な日本の児童文学をきびしく批判しました。執筆者の一人である瀬田貞二さんも坪田譲治について≪譲治が、大人のための小説の力量を児童文学の世界に持ちこんでくれたことは、ありがたいことでしたが、方向をとりちがえて、「生活童話」という変則なタイプを以後に置土産してしまいました。≫と、いさぎよくいいきっています。
その瀬田さんの『子どもの本評論集 児童文学論』の上下二巻が福音館書店から出版されました。堅牢な造りで、上下二冊で一万円という高価な本です。没後三十年、若い人たちには『ナルニア国物語』、『ホビットの冒険』、『指輪物語』の訳者として知られていますが、戦後の代表的な評論家の一人で「ファンタジー」や「戦後の児童文学」、「近代日本子どもの本の歩み」などを、視点のしっかりしたわかりやすい文章で論じています。時代は進んでも、学ぶべきところは少なくなく、児童文学の評論を復活させるためにも、若い人たちにぜひ読んでほしいと思います。
≪平凡な生活をして平凡な思考に馴れているぼくたちには、見ることの許されていない深いもの、考えることを隠されている深甚微妙ななにかを、空想物語のすぐれた作家たちは澄みきった光にあてて「見えるようにして」くれる。そのとき一瞬にして、忘れていたときめきやほてりが立ちもどってくる。≫
(2009年8月号)
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















