作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.169幼年童話を読む

絵がなくても、お話のできごとが幼児の心にくっきりとイメージされ、主人公といっしょになって、よろこんだり、かなしんだり、笑ったりできるのが、本物の幼年童話です。近頃は絵本が盛んになり、いわゆる幼年童話と呼ぶにふさわしい本の出版が少ないような気がしていました。そんな時、『もりやまみやこ童話選 全5巻』(ポプラ社刊)が送られてきました。代表作の『きいろいばけつ』をはじめ、小学館文学賞の『あしたもよかった』、『こうさぎのジャムつくり』など、久しぶりに楽しく読むことができました。森山さんの童話は、子どもが子どもであることのすばらしさを、いきいきと語りかけてくれます。大人の常識では決して見えない、幼児の思いが手にとるように伝わってきます。その文章は声に出して読みたくなるほどのやわらかさとあたたかさを感じさせてくれます。どんなに短い童話であっても『おはなしぽっちり』のように、幼児ばかりか、大人までもほのぼのとした気分にさせてくれるのです。

すぐれた幼年童話の書き手といえば、森山京さんのほか、あまんきみこさん、角野栄子さん、神沢利子さん、松谷みよ子さん、男性では三木卓さん、山下明生さんなどの名が浮かびますが、いずれもベテラン作家ばかり。ぜひとも新鋭作家の登場を願いたいものです。

そういえば、今年の椋鳩十児童文学賞は十五年ぶりに幼年童話の本(宮下すずか作『ひらがな だいぼうけん』偕成社刊)が受賞作に決まりました。ひらがなを素材にしたユニークな発想の童話で、文字がおしゃべりをして動き出し、意味不明の並び方をしたり、犬のお腹にとびこんだ文字がくしゃみになってとび出したり、本にらくがきされたへのへのもへじが、ほかの本のタイトルにかくれたり、三編ともに実に愉しく、当節流行のことばあそびのお話とは異なり、上質な幼年童話に仕上がっています。この作者のこれからが楽しみです。
(2009年7月号)

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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