作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.165茂田井武の仕事

昨年生誕一〇〇年を迎えた画家、茂田井武の『茂田井武美術館 記憶ノカケラ』(講談社)が出版されました。画家というより童画家、絵本画家として知られていますが、この本によって久しぶりにぼくの大好きな人の画業全体を眺めることができました。モノクロだけのさし絵であっても、そのやわらかな線は物語の風景にとどまらないなつかしさとあたたかさを与えてくれます。昭和三十一年、わずか四十八歳で亡くなりましたが、戦後のきびしい時代の中で、多くの子どもたちにどれほどすてきな夢を持たせてくれたことか。素朴で詩情にあふれたたくみな色使いの絵は、ため息が出るほどです。とりわけ日焼けしたような色で描かれる子どもたちの表情は、たくましさとやさしさにあふれていて、自分の子ども時代と重なりあいます。動物を擬人化しても人間そっくりの心を感じさせてくれます。外国のメルヘンであろうと、人物も場所も日本のどこかに存在しているような気がしてくるのです。

彼が亡くなる年に描いた『セロひきのゴーシュ』は、数多い賢治童話絵本の中でも燦然と輝いています。絵に対する魂のこめ方がちがうように思います。≪五百年前に死んだ一匹の虫 千年前に枯れた一本の花 孤独な大事業を完成して死んだ そのゆたかさは 無限秤でなければはかれない≫。この本に収められている彼の言葉が重く胸にひびきます。

絵本の出版が盛んな今日、つぎつぎと絵本作家が登場してきます。画稿が完成するまで一年以上も待たせる、自信たっぷりの絵本画家もいます。どの絵本を描いてもそっくりのものしか描けない絵本画家もいます。果たしてこの言葉は彼らの心にどうひびくのでしょうか。どんなにストーリーがすぐれていても、すぐにあきてしまうような絵や魂の感じられない絵はいつか忘れさられてしまいます。何度眺めても、物語以上に読者のイメージを刺激してくれる絵、決して子どもの心を忘れていない絵、そんな絵の描ける画家であってほしいものです。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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