作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.160小沢正さんの幼年童話
先日、小沢正さんを偲ぶ会がありました。今年の4月、70歳で亡くなったそうです。昭和40年、彼が28歳の時に出版した幼年童話『目をさませトラゴロウ』(理論社刊)は当時の児童文学界にとって、まさに衝撃的な作品でした。トラゴロウにたくされた子ども像はそれまでの童話で描かれた子どもへの思いやりもやさしさもない、本能的なエネルギーにあふれていました。そこにあるのは子どもが本来持ちあわせている野生そのものの姿であり、そのしたたかな寓意は、みずからの力のみを頼らなくては生き得ないとする、権力を持たない強者の思想でした。この本にはトラゴロウを主人公にした話が7つ収めてありますが例えば「キバをなくすと」では遊んでいるうちにキバをなくしたトラゴロウがニワトリにミミズを食べさせられたり、ブタにくさったジャガイモを食べさせられたり、ヒツジに枯れ草を食べさせられたり、さんざんな目にあわされますが、キバをさがしだしたトラゴロウは、ばかにした動物たちを全部飲みこんでしまいます。
このユニークな個性はその後もかわらず、『のんびりこぶたとせかせかうさぎ』、『たぬきのイソップ』、『こぶたのかくれんぼ』(いずれもポプラ社刊)など数多くの幼年童話を発表してきました。時としてその寓意が幼児の思考を越えるものであっても彼は決して子どもに媚びようとはしません。どんなお話もユーモアたっぷりに面白く読ませてくれます。たとえ非情な世界を描こうと奇想天外なストーリーと寓意性で子どもの共感できる童話に仕上げます。ナンセンス童話のすぐれた書き手といわれるゆえんです。いずれの童話も新鮮さを失っていないのは時代や環境にかかわりのない子どもの本質がしっかりと描かれているからです。あえていうなら小沢さんは幼いこどもの心をいちばんよくわかっていた童話作家かも知れません。そんな小沢さんの童話を今日の子どもたちにもぜひ読ませてほしいと思います。
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















