作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.159二人の老作家の新作
口あたりがよくて、つい手を出してしまうけれど、さほどうまくもないお菓子みたいな物語は文章で描かれたコミックという気がしないでもありません。長い間、自分の描くべきテーマにこだわって書き続けてきた老作家にとって、いかに売れようと、お手軽な読み物とは縁遠く、まことに生きづらい世の中になったように思います。
そんな折、実に久しぶりに児童文学界の長老ともいうべき二人の作家の新作に出会い、心ときめきました。一つは、長崎源之助の『汽笛』で、もう一つは、たかしよいちの『妖怪伝』(全3巻)。いずれもポプラ社刊。
長崎さんは84歳。常に庶民の目を通して戦争のおろかさを告発し続けてきた誠実な作風で知られています。この作品も戦争が終わり、中国から引き揚げてきた作者が長崎の海軍病院へ入院していた時の体験をもとに原爆孤児たちとの交流を淡々と描き出した短篇です。ひどいケガをしていてもたくましく生きる子どもたちの姿と帰るべき場所のある作者に対する子どもたちの切ない思いが胸を打たずにおきません。風化させてはならない戦争体験の大切さをひしひしと感じさせてくれます。
たかしさんは80歳。古代へのロマンを追い続けた作者で、『古代発掘物語全集』(国土社)はかつての子どもたちを夢中にさせました。『河童』、『天狗』、『鬼』の3冊からなる『妖怪伝』は彼のすぐれた個性を集大成したともいうべき作品で、スケールの大きさ、物語性の豊かさは少しも色あせていません。民話風の素材が鮮やかにたかしワールドをつくりあげています。たとえば『天狗』。天狗どもを従えた大天狗と妖怪の息づまる戦い、仁王さまを鬼とまちがえた老天狗の奮闘ぶり、人の夢を横取りして馬糞をくわされるちび天狗のユーモラスな行為、奇想天外なストーリーとリズミカルな文体。本当の文学の面白さとはなにかを改めて教えられます。
まさに子どもも大人も楽しめます。二人の作家の作品を読み、「老兵は死なず」の思いを強くしました。
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















