作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.158子どものささやかな成長を描く作品
かつて日本の文学には「私小説」と呼ばれる作品がありました。「私」を主人公にし、自らの体験を対象にして自己を淡々と語っていく小説で、地味ながらも作者の心境に深く共感させられました。奇抜で面白い小説ばかりでなく、子どもの文学にもこんな小説があってもいいのではと思っていたら『しずかな日々』(椰月美智子・講談社)という本が送られてきました。事件らしい事件もなく、小学五年生の「ぼく」の日常をその心情に寄りそって描いた、まさにタイトル通りの小説でした。母と二人暮らしの家を出て、突然祖父と生活するようになった「ぼく」が大人に気をつかい、学校でも小さくなりながらささやかなよろこびや勇気を持って生きる姿が上質で端正な文章によって描かれています。ここにはいじめも、性急なメッセージもなく、それ故、どんなことでも静かに受けいれる「ぼく」の成長ぶりが感動を呼びます。人生の達人として父にかわって孫や彼の仲間を見守る祖父も大きな存在感があります。もちろん私小説ではないけれど、すぐれた私小説にも似た味わいのある作品でした。ちなみにこの作品は第23回坪田譲治文学賞を受賞しました。
そういえば第18回椋鳩十児童文学賞を受賞した『ボクシング・デイ』(樫崎茜・講談社)も「ち」と「き」の発音ができず、学校の「ことば教室」で特別授業を受けている小学四年の少女が先生や同級生のはげましを受けて少しずつ成長していく姿を私小説風に描いた地味な作品です。ボクシング・デイとは一日おくれでクリスマスプレゼントを開ける日のことですが、校庭のブロックでできたスイミィの声を聞いたり、もうすぐ伐られるセコイアに心寄せたりする少女のなんでもない日常の心象風景が主人公の子どもの日の出来事として語られています。『しずかな日々』に比べていささか力不足でもおじいちゃん先生の抱擁力など、期せずして似たようなテーマの作品で、ありふれた子どもの生活にも描くべきものがあるように思いました。
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















