作家紹介

こどもの本を考える:西本鶏介
No.157砂田弘さんを悼む

3月20日、砂田弘さんが亡くなられました。それよりふた月ほど前、坪田譲治文学賞の選考会で御一緒したのが最後になってしまいました。坪田門下生唯一の生存男性作家であり、現役で活躍する数少ない七十代の児童文学者がまた一人消えたことになります。文学に対する思想は違ってもぼくよりほんの少し年上の同世代の仲間として長くつきあってきました。実に趣味の広い人で、俳句、落語、将棋、囲碁、カラオケ、競輪、パチンコなど数えればきりがないほどです。とりわけカラオケが好きで、自分で吹き込んだ歌謡曲のテープを持っていて、旅行の時など、それを何時間も聞かされて参ったことがありました。大学で教えていても年度末の最後の講義の時、必ず歌謡曲を熱唱したといいます。

砂田さんのデビュー作は『東京のサンタクロース』(1961年・理論社)ですが、新鋭作家として注目されたのは「第11回日本児童文学者協会賞」を受賞した『さらばハイウェイ』(1970年・偕成社)です。欠陥自動車をめぐる事件を通して高度成長の矛盾をえぐったいかにも社会派らしい作品でいま読みかえしても古くなっていません。しかし、砂田さんの作品で最も印象深いのは『二死満塁』(1977年・ポプラ社)で、翌年の課題図書に選ばれ、子どもたちの人気を博しました。その文庫本の解説で、ぼくは次のように書いています。≪作者は、野球小説のおもしろさだけで、この物語を書いているのではありません。富めるものと貧しいもの、正義と不正義、ウソと真実が、個性豊かな登場人物にたくしてくっきりと描き分けられています。(中略)それにしても、久しぶりに、読むことの楽しさとさまざまの生き方を考えさせてくれるすてきな作品です。と同時に砂田さんのストーリーテーラーとしての力を改めて認識させられました。≫あさのあつこさんの『バッテリー』よりもはるか前にこんな小説があったことを忘れてほしくありません。さよなら砂田さん。合掌。

西本鶏介(にしもとけいすけ)

1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

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