作家紹介
こどもの本を考える:西本鶏介
No.156文庫本に文学作品も
読書というのは食べ物と似ていて、いくら面白くても、娯楽的要素の強い本ばかり読んでいると飽きてきて、たまにはじっくりと自分を見つめ、人間性の本質を問いかける本も読みたくなります。新刊書を尻目にかつて心にひびいた本を書庫から探し出して読むのはそんな時です。
子どもだって同じこと。非日常的なできごとを気楽に楽しめる物語であっても、それのみでは退屈になり、少しむずかしくても読みごたえのある物語に挑戦したくなるはずです。かつての私たちがそうであったように幅広い読書こそを子どもの心を豊かに成長させてくれるのです。しかし、近ごろの子ども向き文庫本の新刊はアニメ風の戦士ものであったり、風がわりな魔女や魔法使いのファンタジーものであったり、マンガチックなラブコメディーやなぞとき探偵ものであったり、ほとんどが娯楽的な読み物で、シリーズ化されている作品も少なくありません。いわゆる子どもの文学と呼ばれる作品はあまり見かけなくなり(もちろん古典や名作は既刊の本の中にふくまれていますが)、子どもの文庫イコール娯楽読み物といったイメージが定着しつつあります。なぜこうした読み物が多いのか。いうまでもなく、子どもたちに人気があり、本が売れるからです。
本選びはあくまで恣意的なものであり、どんな本であれ、子どもたちに読書の喜びを知ってほしいと思います。しかし、娯楽的な読み物ではない本を読みたい子どもだっているはずです。戦後から今日までの児童文学作品の中にも、もう一度子どもたちに読んで欲しいと思う作品がたくさんあります。子どもたちの買いやすい文庫本の中に登場すれば、今の子どもたちだって読むことができます。すぐれた作品はいつ読んだって深く心に残ります。正直いって、今日の児童文学にはこれぞと思う作品がとぼしく、せっかく新人が登場しても力不足を否定できません。だからというわけではありませんが、過去の作品に対しても目を向けてほしいものです。
西本鶏介(にしもとけいすけ)
1934年、奈良県に生まれる。児童文学の評論・創作・民話研究など幅広く活躍。各種の児童文学賞の選考委員をつとめる。昭和女子大学文学部教授。各ジャンルにわたって著書は多いが、読み聞かせのための本として『読みきかせ日本昔ばなし(10巻)』(小学館)『童話が育てる子どもの心』(同)『子どもとお母さんのためのお話(日本・外国)』(講談社)、『こどもと大人のためのメルヘン・グリム童話(1)・(2)』(ポプラ社)、絵本に『お母さん、ひらけゴマ!』(同)などがある。

















