ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

俤
61
俤

水上瀧太郎『山の手の子』
ネルヴァル『オクタヴィ』
鈴木三重吉『千鳥』


Illustration(c)Sumako Yasui

切なくて、まぶしい
私が帰っていく「あの日」

「町っ子と遊んではいけません」――気の弱いお屋敷の子が、秘かに心を震わせた恋の結末は(水上瀧太郎『山の手の子』)。意のままにならない恋をパリに残し、イタリア旅行に出かけた私。水の娘・オクタヴィに語る、宿命と幻影に彩られた情熱の物語(ネルヴァル『オクタヴィ』)。「よその伯父さんが連れに来たんだ。」――別れのことばもないまま、不意に姿を消してしまったお藤さん。瀬戸内の情景と淡い恋心が眩しい、鈴木三重吉の文壇デビュー作(『千鳥』)。過ぎし日の、はかなくも美しき追想の世界。

著者紹介

水上瀧太郎 みなかみ・たきたろう 1887-1940
東京・麻布生まれ。本名は阿部章蔵。慶應義塾大学在学中に執筆した『山の手の子』が永井荷風に認められる。ハーバード大学に留学し、帰国後は明治生命に勤務しながら執筆活動を行った。代表作に『大阪の宿』『貝殻追放』など。

ネルヴァル Gerard de Nerval 1808-1855
フランスのロマン派の詩人、作家。パリ生まれ。ゴーチエ、ユゴー、デュマらと親交をもち、夢と幻想を描いた作風は、後のシュールレアリズムにも影響を与えた。代表作に『火の娘たち』『東方紀行』『オーレリア、あるいは夢と人生』など。

鈴木三重吉 すずき・みえきち 1882-1936
広島市生まれ。初めて書いた小説『千鳥』が夏目漱石に激賞されて作家デビュー。その後、童話雑誌「赤い鳥」を創刊して、児童文学の発展に大きな功績を残した。その他の代表作に『山彦』『黒髪』など。

編集者より

「恋」というにはおぼろげで、「青春」というほどはっきりした形はない。でもキラキラと輝いて、いつまでもその人を照らしつづける。そんな眩しい幼年時代の情景が詰まった一冊が『俤』です。『山の手の子』(水上瀧太郎)は、お屋敷の子として厳格な家庭に育った少年が、雑多な町の空気に憧れ、永遠の恋を体験する物語。切ない結末ではありますが、その穢れなき眩しさはなんともいえずいいもの。何度も読み返したくなる一冊です。(S)