ポプラ社 百年文庫

名短篇の本棚です

全巻ラインナップ

本
14
本

島木健作『煙』
ユザンヌ『シジスモンの遺産』
佐藤春夫『帰去来』


Illustration(c)Sumako Yasui

古書店と「愛書狂」
本に魅入られた人たち

振り手と買い手の声が飛び交う古本市で、年下の小僧たちにさえ圧倒される青年・耕吉。生活力に溢れた庶民の仕事ぶりに、ほろ苦く自らを断ずる青春(島木健作『煙』)。遺言により封印された著名コレクターの蔵書をねらう男が繰り出す、抱腹絶倒の奇策の数々(ユザンヌ『シジスモンの遺産』)。同郷の文学青年に教えを請われ、作家のなんたるかを指南するうち、思わぬ人生訓にたどりつく『帰去来』(佐藤春夫)。「愛書狂」たちの、滑稽でちょっと切ない物語。

著者紹介

島木健作 しまき・けんさく 1903-1945
札幌市生まれ。本名朝倉菊雄。苦学しながら20歳で中学を卒業。農民運動に加わって共産党に入党するが、1928年に検挙されて転向。34年、獄中体験に基づく『癩』で注目される。終戦の2日後に肺結核のため死去。代表作に『第一義の道』『生活の探求』など。

ユザンヌ Octave Uzanne 1852-1931
フランスの作家、編集者、古書蒐集家。書誌学への造詣の深さを生かし、幅広く出版活動に携わる。自ら造本を手掛けた『扇子』『日傘』などは、アール・ヌーボー風の美しい装幀で愛書家の垂涎の的となっており、古書市場で高値を呼んでいる。

佐藤春夫 さとう・はるお 1892-1964
和歌山・新宮生まれ。文学を志し、中学卒業後に上京。新詩社で与謝野鉄幹に師事、詩人として世に出た後、1918年『田園の憂鬱』で新進作家の地位を得た。60年に文化勲章を受章。他の作品に『都会の憂鬱』『殉情詩集』など。

編集者より

この巻は、「本」という不思議な物体が人間界に巻き起こす千差万別のドラマを垣間見せてくれる。物体? そう、本はモノなのだ。モノでありながらモノを超えていく憧れの異名、ゆえに名状しがたい魔力で人間を組み伏せてしまう。あらゆる欲望と想像力を呑み込みながら、分け入る人間の数だけ新しいドラマを生み出す。垂涎のコレクションを我が物にしようと画策する輩、古書店につとめる青年の夢、本をめぐっての珍妙な人生問答など、熱心で、滑稽で、なぜか愛しい物語。(N)